2008-08-08

『スウェーデンハンドブック』(岡沢憲芙,宮本太郎/早稲田大学出版部)













スウェーデンに行ってきます。


こちらでは全く報告していませんでしたが、夏に留学にいくことになりました。
場所はStockholm School of Economics(訳せばストックホルム経済大学)で、国はスウェーデン。
期間は8月18日から、12月30日まで(授業は8月20日から12月22日)。


ちなみにIDEASの世界経済学部ランキングでは
63位(64.19)Handelshögskolan i Stockholm, Stockholm, Sweden
79位(77.01)Faculty of Economics, University of Tokyo, Tokyo, Japan

となっています。

スウェーデンは確かに高い(「スウェーデン学派」という言葉すらある。ヴィクセルやノーベル経済学者オーリンやミュルダールなど、経済学の教科書に必ず出てくる人たちもいる)のですが、同じローカル言語の国で日本の低さは致命的。だって、GDP2位だよ。

大学に来て思ったのですが、日本って工業立国なんですね・・・。
技術屋の国、ものづくりの国、という誇りが日本の大学にはあって、だから世界のレベルも高いという話をどなたかがしていました。実際に研究手法や学生の意識を見ているとそれは本当のような気がします。

設立目的が官僚養成ですから、世界に「知」を生み出すところではないのかもしれません。
でも、今の時代、本当に官僚養成が目的なのか、目的に対して最適化されているのかと思うと、なんだか。
そもそも知らずに入学する自分が悪いんですが。
だからサークル活動ばっかりやってきたわけですが。

と、ぶちぶち言っていても仕方ないので、いろいろ探したところ
学部に交換留学の制度があり、それを利用して行くことになったのでした。
在籍したまま留学しようとすると、これしかないよ、と言われたのですが、冷静に考えると疑問です。
おそらく語学留学以外で、という意味だったのでしょうね。

募集枠が学部に2人しかなく、しかも就職が決まらなければ行かないつもりだったので、
行けるのは夢のまた夢の気がしていましたが・・・こう考えるとちょっと感慨深かったり。
そのために3年で卒業単位を揃えたんですから。

学部進学時点で大学に5年いることが確定していたので、さすがにもういいなあ、というのと
英語を学んで世界のレベルにアクセスしたいと感じたこと
様々な国の人と経済学という共通言語で議論してみたいと思ったこと
きちんと経済学の勉強をしてみたい、と思ったこと

きっかけはそんな感じで。

・・・一応派遣計画書(軽い研究計画みたいなもの)は作成したものの、自分で見てもいまいち。公務員試験のおかげでロクにリサーチもしていなかったので、いまさら本を読んでいるわけです。「お前はもう、死んでいる=はじめたときの問題意識の質で、結果の質が決まる」を地でいく身としてはこのままではろくな留学にならないと。




で、長々書いてますが、一冊目の本。

Ⅰ自然と文化
Ⅱ政治と経済
Ⅲ社会システム・政策

目次でわかるとおり、「研究したい人向けのハンドブック」という印象。
旅行する人とか、一般向けではありません。
日本のスウェーデン研究者が、それぞれの専門分野を簡潔に紹介した記事をまとめた本。

Ⅰ自然と文化
・自然を愛する国民。「自然享受権」が認められていて、私有地の森林を自由に散策できる。
・政治の参加意識が高い。投票率は8割(日本は6割)で女性議員比は45%ほど。

Ⅱ政治と経済
・ナポレオン戦争以降、180年以上戦争を経験せず
・1960年代に急成長、70年代に停滞
・国防は「武装中立」を堅持
・地方自治が経済理論に適っている
-地方税収は均一課税
-地方税収の過半(県:7割、市:6割)が独自財源
-県の支出は保険・医療が8割、市は社会福祉5割、教育3割、環境衛生1割弱
・集権的な労使関係
-組織率は8割ほど
-連帯的賃金政策(同一労働均一賃金)
-連帯的労働政策(能力に応じた労働・賃金)

Ⅲ社会システム・政策
・高校・大学に入試試験はない
・報道の自由を最初に認めた国
・労働市場の48%が女性で、逆M字カーブを描く
・環境負荷をすべて数値化している

「しかしながら不合理が認識されてから制度改革に踏み切る速度と、成果を確実に蓄積していく堅実さは見事である。情緒論や感情論でブームが煽られながらも、一時の感情が去り、冷静に成果を検討してみると、一歩なりとも改革が進んでいなかったことに気づくというのはスウェーデン流ではない。とにかく確実に成果を根気強く積み上げていく技法こそスウェーデン流デモクラシーである」

「中央環境審議会が『スウェーデンの環境負債』を公表した当時のオロフ・ヨハンソン環境大臣は、一連の負債リストを公表する際に『価値あるものはすべて価格を有する。環境問題の核心は、誰に、どの時点でどのようなやり方で環境汚染がもたらす社会的費用を強制的に負担させるかだ』とスウェーデンの環境政策の核心を語っている」


印象に残ったのは、この2つ。

すごく直感ですが、スウェーデン社会の本質は「マスメディアと経済学」ではないかと。

メディアの適切な情報提供力があればこそ、国民の政治参加意識も高まる。
経済学の論理があればこそ、合理的な分権体制や環境負荷の内部化ができ、自律的になる。


という仮説を元に、もうちょっと読んでみます。










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