2011-03-06

『話し言葉で読める「西郷南洲翁遺訓」 無事は有事のごとく、有事は無事のごとく』(長尾剛/PHP研究所)

つまり、です。組織を率いる者は、心を常に公平に保っていなければなりません。嫌いな奴でも、気に喰わない意見を言う奴でも、まずはおのれの“相手を嫌う心”を封じて、対せねばならぬ。トップに立つものの責務とは、言ってしまえば、それだけなのです。



西郷隆盛って、自分で本とか残してないんです。(てかそういうところが既に凄い。)

で、西郷隆盛に触れることのできる数少ない一冊が「西郷西郷南洲翁遺訓」。米沢藩の藩士たちが西郷を訪ね、意見交換をした際の「ありがたいお言葉(&明治政府批判)」をまとめたもの。で、これはそれを現代語訳したもの。だって原著は文語体で読みづらいんですもん。岩波の文語バージョンは昔から持っていたのですが、あまりの読みづらさに挫折していたんですね。その意味でこれは画期的。


内容はまさに公務員のバイブル。「これを時の権力者に読ませてやりたいわ」と誰しもが思う内容。笑
西郷さん、公的な職業に携わる人間として、人として、すっごく立派。こころがきれいななんだなあと思ってしまいます。『貞観政要』が本当はもっとバイブルなんでしょうけど、こっちのほうがコンパクトでいいのでは?と思ったりします。


「言うのは易し、行うが難し」で、これを実行して生きていくことが超難しいんでしょうけど、西郷隆盛って本当にそうやって生きてきてるんですよね。。。という意味で言葉の重みが桁違いです。思わず目頭を熱くしてしまいました。


私、いままで服部正也と井上準之助みたいになりたいなあと思っていたんですが、ここに来て西郷隆盛がトップに据えられそうです。なんかミーハーみたいでいやだな(まあ、ミーハーですけど。笑)




『明治という国家』(司馬遼太郎/日本放送協会出版)

「明治時代とすると、流動体みたいな感じになりますが、「明治国家」としますと、立体的ないわば固体のような感じがするから、話しやすいんです。そんな国家、いまの地球上にはありません。1968年から1912年まで44年間つづいた国家です」



さっきの「米生産調整の経済分析」の推薦図書(笑)
荒幡克己氏が、本の中で「明治という国家」に出会って(本の中では「邂逅した」とまで言われています。笑)、使命感を持ったのだとおっしゃっていたので、それならと思って購入した一冊。

確かにすごい本。歴史観変わるわ。


本の内容を一言で言うと「司馬遼太郎が偉そうに語る「明治国家」の実像」。司馬遼太郎って、すっごい調べまくってから小説書く人なんですね。歴史小説家はみなそうなんでしょうけど、彼の徹底振りは(特に「坂之上の雲」。)すごい。で、そういう小説家としての活動を通じて見えてきている「明治国家」について「お前ら、明治ってのはな・・・」と、まるで同時代を生きてきたかのようにみずみずしく語る、というのがこの本。

歴史の教科書ではまるで神様のように出てくる明治の政治家たちが、司馬遼太郎視点でダメ出しされていく本(笑)。これは歴史観変わりますわ。幕末のころって、本当に血なまぐさい時代だったんですね。国のためがいつしか藩ため、自分のためになっていく・・・。

で、ほぼ唯一綺麗なのが坂本龍馬と西郷隆盛。とくに西郷隆盛への肩の入れようは半端ではなく、「司馬さん、そんなに褒めていいの?この人、征韓論と西南戦争でしか教科書に出てこないんですけど。。。」と突っ込みたくなるんですが、どう考えても教科書を書いている人よりも司馬遼太郎のほうが持っている情報は多そうなので、軍配は彼に上がりそうです。


別に歴史に名を残したいとか思っていわけではないし、特にそういうことを公言する人間はあまり好きではないのですが、「司馬遼太郎(みたいな人)に褒められる行政官でありたいなあ」などという、考えてみればかなり大それたことを思いたくなってしまう一冊です。笑


あ、冒頭の引用部分を切り取った理由は要は「明治のときだけ日本史の中で、突然変異的に生き生きした国だったんだよ」っていうことを司馬遼太郎が一番言いたいんだろうなあと思ったからでした。坂之上のなんとかですな。




[Read more]

『米生産調整の経済分析』(荒幡克己/農林統計出版)

今世紀一番の米の生産調整の専門書。



行政がやるべきことを1人でやってみた、的な本。

職場の先輩に薦められて読んだ本でしたが、すごい。

日本の米の生産調整に関する専門書です。一般向けの本としては質量ともに最高レベル。
これまで何ゆえに生産調整が行われてきたのか、そして現在はどのように行われているのか、未来はどうすればよいのか、を過去の文献や聞き取り、そして著者の専門である計量経済学の視点で明らかにし、あるべき政策の評価軸を定めた上で、現実的な施策を提言しています。

著者は元農水官僚であり、また農業経済学の分野では著名な米メリーランド大での留学経験を持ち、そこで師事をした教授との共同研究としてこの著作の構想を行ったのだとか。学術的に価値があるのはその「生産調整をどう評価するか」のメソドロジーの方であり、それはそもそも市場均衡状態を実質減反率を仮定した上で関税はそのままで定義して市場価格を求めて、その後直接支払いの移転率を・・・と、私もちゃんと説明できません(笑)



みんなきっと、減反はやめたいんですが、やめらんないわけです。「おかしいじゃないか。やめるべきだ」と言うことはものすごく簡単なわけですが、実際どうやるのかが難しい。そのためには過去の経緯を総ざらいして、その上で現在の状態を定義して・・・と考えるとこういう本になるんだろうなあ・・・と。


結論は財政負担と市場のゆがみの少ない手法で、ソフトランディングさせることに尽きるわけです。
それはなんかもうアプリオリに決まっている話であって、別に分析とマッチしているかと言われるとそうでもない気がするんですが、国の政策なんて所詮そんなつまらなーいものであって、鮮やかな手法を大胆に取り組んでいくのではなく、みんなが当然に思っていることを当然のように抜かりなくやっていくのが行政なのかな、などと改めて思ったりもします。

こういう本は本当に貴重ですね。