2009-02-06

『実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる』(マイケル・J・マーコード (著), 清宮 普美代ほか (翻訳)/ダイヤモンド社)




「アクションラーニングとほかの問題手法との最大の相違点は、アクションラーニングは多様な視点を持つメンバーの集合体であり、問題の中身や背景に詳しい解決法を求めているわけではないということである。とりわけ複雑な問題を解決する場合は、専門性より多様性が要求されるとの研究結果が出ている。グループが問題を解決していくプロセスで、専門家が弊害を生み出すことがある。専門家はもちろん価値ある情報を提供してくれるが、高い専門性を持っているがゆえに、自分の殻の中で考えすぎてしまう傾向がある。その専門性が往々にしてグループ内での議論独占へとつながっていく。その結果、専門的な知識がないメンバーの間に、専門家から『くだらない』と思われるのでは、という恐れが生じ、自由に質問をしたり、発言をすることができなくなる。さらに専門知識を持たないメンバーは、自分の解決策がもしかしたら専門家によってすでに検証されているのでは、と考えるようになる。加えてメンバーが専門家に依存しすぎたり、リスクを取ることを避けるようになる。・・・実際に問題と対峙している専門家は、答えを持っている専門家より役に立つと言える。グループが問題を解決しようとして、新しい解決策を見出すために変革を求めているとしたら、新しい考えを生み出す自由が必要となる。グループの重要な能力は、合理的でわかりやすい答えというより、むしろ混乱している情報を整理し、解釈し、理解する能力である」



アクション・ラーニングとは「実務を通じたリーダー育成、チーム・ビルディング、組織開発を効果的に行う問題解決手法」。サークル運営入門書でしょう。なぜならば、これが(まじめな)学生団体の運営の芯をよく表していると感じたからです。

「社会的にいいこと」をやっている学生団体って、結構増えてきています。基本的に、彼らに金銭的な報酬はありません。じゃあ何が報酬か?それは報酬は経験と仲間でしょう。仲間は活動する中で自然に生まれるものですが、「よい」経験は必ずしもいつでも得られるものではありませんし、非常に短い期間のある経験を、きちんとした積み重ねを示して、個人にとって「よい」経験に転化させるためには、(少なくとも学生レベルにおいては)何らかの枠組みの設定が必要なのです。

要するに「社会的にいいこと(=社会的な価値)」をやりながら「学習(=個人にとっての価値)」を両立するのがまじめな学生団体の運営の肝であって、逆に金銭的な動機付けやそれに伴う法律上の責任が存在しない以上、この2つを両立しないとこうした学生団体は続いていかないのです。(()のように抽象化すれば、あらゆる組織の原理まさにそうですね)

と、偉そうな感じで恐縮ですが、少なくとも自分ではそう思っていて。

本書はまさにそういう視点で書かれたHow to本。が基本的な認識が違い、かなりのショックを受けました。マネージャーが、要らないんです。

一番の特徴は自分たちが「何を学びたいか」を定義し、行動に入ること。これは、すごい。「何をすべきか」「何が問題か」といった問題解決思考ではなく、「自分たちは、何を得たいか」を各自が考え、それに関連しそう(で解決できそう)な問題を自分たちで選んで、実行する、というのが要点。①ここから何を学ぶか、とか、何がダメか、というネガティブな側面を一切排除したこと、②個人と団体を結びつける意味のマネジメントがいらないこと、の2点で革命的な手法のような気がしています。

・・・いや、実際これはすごい。


ということで、下記は具体的なスキル(とフレームワーク)の抜粋です。
いろいろ重なって、反省しきりでした、ね。


・2つの基本ルール
1、意見は質問に対する回答のみ(と意識づけると他人の意見を聞くようになる)
2、ALコーチはいつでも介入できる(ファシリテーターがいる)

・アクション・ラーニングと問題解決の違い

1、問題
・・・緊急度の高いもの。行動を必要とする挑戦的な課題。
2、グループ
・・・メンバーは4-8人が適切。
3、質問
・・・解決策はメンバーが考える。多様性の中で生まれる。
4、行動
・・・実際に問題を自分たちで解決する。
5、学習
・・・問題解決以上に学習が重要。
6、ALコーチ
・・・学習効果を確認するために介入する存在。問題解決ではなく、学習を目的としてチームの行動をマネジメントする。(学習効果の確認のためにセッションを中断するなど)


・基本的なプログラム

1、グループ編成とスケジュール
2、問題の提示
3、問題の再定義
4、目標設定
5、行動計画の作成
6、実行
7、学習成果の確認

・企業が直面する5つの課題

1、企業が抱える問題の複雑化
2、新しいリーダーシップスキルと能力の必要性
3、成果を上げるチームを迅速に育成するニーズの増加
4、価値ある知識を蓄え、その知識を伝達していく必要性の増大
5、学習の必要性の増大と時間的制約の増加

・5つの課題に対処する最良の手法

1、問題解決
2、リーダーシップ開発
3、チーム・ビルディング
4、学習する組織の構築
5、個人の成長と能力開発

・問題の選定基準

1、重要度が高い
2、緊急性がある
3、自分たちが抱えている問題
4、能力の範囲内
5、少数のメンバーが問題に精通
6、メンバーにとって、有意性がある
7、重要な学習の機会がある
8、グループに権限が与えられていること

・メンバーの選び方

1、コミットメント
2、問題のついて知識と理解
3、実行のための権限
4、精通
5、多様性
6、組織によるメンバー選出
7、セッションへの出席

・グループの規模
9人以上は不適。

・専門家の弊害
「アクションラーニングとほかの問題手法との最大の相違点は、アクションラーニングは多様な視点を持つメンバーの集合体であり、問題の中身や背景に詳しい解決法を求めているわけではないということである。とりわけ複雑な問題を解決する場合は、専門性より多様性が要求されるとの研究結果が出ている。グループが問題を解決していくプロセスで、専門家が弊害を生み出すことがある。専門家はもちろん価値ある情報を提供してくれるが、高い専門性を持っているがゆえに、自分の殻の中で考えすぎてしまう傾向がある。その専門性が往々にしてグループ内での議論独占へとつながっていく。その結果、専門的な知識がないメンバーの間に、専門家から『くだらない』と思われるのでは、という恐れが生じ、自由に質問をしたり、発言をすることができなくなる。さらに専門知識を持たないメンバーは、自分の解決策がもしかしたら専門家によってすでに検証されているのでは、と考えるようになる。加えてメンバーが専門家に依存しすぎたり、リスクを取ることを避けるようになる。・・・実際に問題と対峙している専門家は、答えを持っている専門家より役に立つと言える。グループが問題を解決しようとして、新しい解決策を見出すために変革を求めているとしたら、新しい考えを生み出す自由が必要となる。グループの重要な能力は、合理的でわかりやすい答えというより、むしろ混乱している情報を整理し、解釈し、理解する能力である」

・振り返りの例(ロッキード・マーティン社のヴァーチャル・グループの例)

1、ヴァーチャルに活動したことで、どんな成果があったか?
2、成功にはどんな要素が貢献したのか?
3、できなかったことは何か?
4、ヴァーチャルグループは通常のグループとどう違うのか?
5、今後、ヴァーチャル・グループで働く場合、役に立つ学びはあったか?

・成果を上げるグループに共通する特徴

1、問題解決への強い意志を持っている
2、明確な目標を有している
3、戦略策定で他社との協力に喜びを見出す
4、質問をためらわない勇気を持っている
5、明確で容認された規範がある
(省察的な質問プロセス、意見より質問、学習へのコミットメント、守秘義務、問題解決と行動の重視、ALコーチの権限)
6、メンバーを尊重し、その考え方を支持する
7、学ぶことと支援することへの喜びがある
8、結束力が強く、信頼しあっている

・質問の形式

1、オープンな質問
・・・かなり自由に、答えを決められる(「この行動を起こせば、どんな最善の結果が考えられるか?」)
2、感情的な質問
・・・感情を共有(「仕事をやりのこしたら、どう思うか?」)
3、省察的な質問
・・・より深く考えさせる(「あなたはマネージャーに問題があるというが、問題の原因は何だと思うか?」)
4、核心をつく質問
・・・前提を再考させる(「なぜそのやり方でやらなければならないのか?」)
5、関連付ける質問
・・・システム思考に基づく(「これらの行動の結果はどうなるか?」)
6、明確化する質問
・・・明確化(「具体的にどういうことか?」)
7、探究的な質問
・・・新しい手段が新しい探究へとつながる(「これは○○に役に立つのではないか?」)
8、分析的な質問
・・・状況だけでなく、原因を検証(「なぜそれは起こったのか?」)
9、クローズドな質問
・・・行動が決まる(「反対か賛成か?」)

・役に立たない質問

1、誘導的な質問
・・・意図的に答えさせる(「あなた自身がやりたいことではないのか?」)
2、複数選択式の質問
・・・都合のいい質問になっている

・よい質問を引き出す条件

1、集中力もしくは緊張感、またはその両方を喚起
2、より深いリフレクションを促す
3、考え方の基礎となる前提に対して疑問を抱かせる
4、答えが難しく、質問するのに勇気がいる
5、改革的な思考へと導く
6、すばらしい解決策への扉を開く鍵が含まれている
7、「無知、リスク、混乱がはびこり、次に何をなすべきか誰もわからない状況下」でなされる新鮮な質問
8、支援的、洞察的、てごわい。
9、独り占めではなく、共有に根ざしている
10、自己中心的でもなく、興味本位でもなく、また自分の賢さをひけらかしたり、情報を得たいがためのものでもない。
11、問題提示者自身の考え方、見方をさらけ出す
12、心を開き、より深く考えさせる
13、仮説を検証し、グループがなぜその行動を起こすのかと同様に、なぜそのやり方で行動するのかを考えさせる
14、行動を促す

・意味ある答えを導き出す質問

1、ほかのやり方でできないか?
2、ほかにオプションは考えられるか?
3、まだ使ったことのないリソースは何か?
4、○○をしたらどうなるか?
5、まったく何もしなかったらどうなるか?
6、ほかに方法はないか?
7、なぜ先に進めないのか?
8、もし~したらどうなるか?
9、~を考えてみたことがあったか?

・アクション・ラーニングの学び方

1、具体的に経験すること
2、その経験を観察し、振り返ること
3、その経験を標準化すること
4、標準化した経験を検証すること


No comments: