2009-02-12

『中庸』(宇野哲人/講談社学術文庫)



「子曰、舜其の大知也與。舜好問而好察邇言、隠悪而揚善、執其両端、用其中於民。其斯以為舜乎」



農業政策について考えていると、いろいろと悩むことがあります。
何を守るべきか。国民の圧倒的大多数を占める消費者の食なのか、産業としての農業なのか、それとも農村空間や農業者の生活なのか・・・。結論は「どれも」なのでしょうが、じゃあ実際にどこに結論を持っていけばよいのか。そう考えて、ふと読みたくなって買った一冊。

中庸とは、平均的なことではなく、もっとも適切妥当なこと(いわゆる最適解)であり、かつまた平凡な当たり前のこと、でもあるそうな。

様々な立場の人間の意見を聞き、その真意の善悪を判別し、善いものは取り入れ、悪いものは隠し、善いものの中でそれぞれの主張が反映されるような結論が、中庸。これができるのは聖人君子であり、そうなるために為政者はすべての知識を頭に入れ、私利私欲に眩まないよう自分自身を修め、他人の意見を聞き、実行していく必要がある、という感じ。

東洋的な最適解の決定メカニズムは、聖人君子という「教育」に委ねられており、西洋的な民主主義という「システム」ではなかったんだなあ、という妙な感慨を持ちました。


この本は、孔子の孫に当たる、子思によって書かれたそうな。当時は老荘思想が勢力を強めていて、宇宙の根本原理を説明するという壮大な学問体系を構築していたため、儒学も人間から出発しているのではなく、天道から与えられた性に従う学問なんだ、とその意義付けをはかった一冊、らしい。そのため抽象的な部分が多く、ちょっと理解できないものも多いのですが、自己修養のために読む一冊としては、いい本だと思います。

リーダーや為政者というと、大きなビジョンを示して、人を引っ張っていくイメージがありますが、これはむしろ逆で、人の中からビジョンを探り出し、一人ひとりが全体を引っ張っていく礎を作るのがリーダーという印象。そういうことを考えて、実践していたのですから舜は本当にすごい人だったんですね。実在していようとなかろうと。


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