自然と文化と経済と経済学。
「多面的機能(multi-functionality)」をめぐる国際的な議論の歴史をコンパクトにまとめた一冊。
取材のために読んだ本でしたが、農業の世界の広がりを感じさせる本でした。
そもそ「多面的機能」とは、国土の保全、水源の涵養(かんよう)、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承など農村で農業生産活動が行われることにより生ずる、食料やその他の農産物の供給の機能以外の多面にわたる機能のこと。
要は農業の、食べ物を作る以外の役割、ということ。水田の水を保つダムのような役割とか、日本っぽい風景とか、ムラのアイデンティティーとか、そんなものをまとめた言葉。
が、この概念の捉え方が、国によって違うらしい。
そもそも開発途上国やアメリカ、カナダは「そんなのねえよ」と言っている。EUは多面的機能を認めているけど、「食べ物をたくさん作るから、たくさんの多面的機能が生まれるわけじゃないよね」と言う。日本や韓国は「食べ物をたくさん作ると、多面的機能もたくさん生まれるんだ」と言う。
なぜか?それは主要な農業の違い(水田か畑作か牧畜か)、農業の歴史の違い(旧大陸か新大陸か)、輸出・輸入ポジションの違い(輸入国か輸出国か)、経済段階の違い(途上国か先進国か)が関係している、らしい。
別に、「そうだよね。みんなそれぞれ正しいよ」といえば話は早いのですが、貿易をするためのルールを定めるとなると、そうは行かない。ある国の主張を通せば、ある国の主張が立たないわけです。でも、貿易は統一的なルールの下でやらなければならない。
そこに国際機関の役割があり、交渉の役割があり、経済学の役割がある、はず。
実施コストを含めた直接支払いが、価格支持政策よりも割高になりうる、というのは意外な点でしたが、現実を見ると、鋭い指摘。
考えてみれば、食料安全保障を主張する先進国って、日本ぐらいなんだなあ、といまさら実感。
世界に貢献する農業政策を、というのが最近の自分の考えだったりします。
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