2009-03-10

『「知の衰退」からいかに脱出するか? 』(大前研一/光文社)



「あなたは地球を商売の道具にする一方で、この地球に何を返していますか?」



日本人よ。お前らはバカだ。いや、個人としてはそれなりに賢いかもしれないが、この国自体がバカなのだ。政治家も、官僚も、マスメディアも腐ってる。というか時代遅れなんだ。俺は昔からこの状況に警鐘を鳴らして一時は政治家になってやろうと思ったが、お前らはバカだから俺のプランを理解できず、いまだにバカな政治家の下に、あくせく働かされている。アジアのほかの国では俺の考えが受け入れられ、発展しまくってるっていうのにな!ジャンプが悪いんだ。別にゲームが悪いんじゃない。日本は間違いなく没落する。この腐った国から、IT・英語・ファイナンスを身に着けて、一人ひとりが抜け出してほしい。必要なのは古典なんかじゃないんだぜ。俺はそのために大学を作ったんだよ。


という感じ。
基本的に「日本国民啓発書」ですが、なぜか「大前研一の半生」にもなっているという不思議な構成。
要するに、それだけ熱意を持って書かれているということでしょう。

大前研一って、もともとは原子力工学の科学者だったのです。早大理工→東工大→MITと進んで、政府のお抱え研究者になりかけてそんな自分の将来にうんざりして、マッキンゼーに渡った、というところまでは知っていましたが、その後はしらなんだ。偉い人ですよね。これだけ世界中で仕事しながら「日本のために」働いてるんですから。

政治家や官僚の無能振りを見るに見かねて政治家になろうと志したが、問題の本質は国民がバカだった、というお話。
だから本を書いて、学校を作って、「分かる人だけでもいい」と活動している、らしい。

「いろいろわけの分からんことを語る、頭のよさげで無内容な人」というものすごく穿った見方をしていたのですが、一冊も著作を読まずにそんなイメージを持つ自分こそ「バカ」ですね。

こういう人だったんだなあ、と彼の半生が透けて見え、多少感慨を覚えました。
本心は分かりませんが、非常に分かりやすい生き方。考えるだけでなくて、実行し、失敗し、成功し、次にどんどん進んでいる。考えることとやることには無限の隔たりがありますから、これは本当にすごいもんです、ね。

フローは無課税にして、ストックに課税する、とか経済学部的には萌えるのですが、そんなアイデアは昔から提案していたんですね。すごいもんです。

・経営もwikiになる
・アウフヘーベンできる仕組みがリアルにはなく、ウェブにはある
・④できる人間を連れてくる、のがリーダー
・どんな国からも学ぶべきである
・21世紀の教養とは、実践型の知識であり古典ではない
・サイバースペースの理解が必須

いろいろ「へー」と思いました。


ただ、大前研一だから、これでいいのです、よ。

政策の成果は歴史が評価するしかない。

どんなエレガントなモデルで、ずば抜けた政策を作っても、理解されなければ実行されない。実行されなければ意味がないのです。理論だけでなく、理解してもらうことも、実行をきちんと促すことも、結果を監視することも、それを評価して・・・といろいろやることがあるんだなあ、と考えると多少欝ですな。ビジネス的な政策って打てないんでしょうか。


「そうだ、僕はユニークな生き方をしよう」が本書の副題ですが、本書に紹介されていることの実践は決してユニークじゃないんですよ、というのが著者の主張なのになあ、とか思ったりしました。繰り返すようですが、主張には基本的に賛成で、言うことがないのです。オオマエケンイチモードになってしまってはいけないのですが、理解できないのか、と馬鹿にされるのは悔しいのです。その辺、いやらしい書き方かもしれませんね。


amazonによれば、初版は私の誕生日という運命的な一冊。
たしかに、それぐらいのインパクトはあったかも。






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