2008-04-04

『農業再建―真価問われる日本の農政』(生源寺眞一/岩波書店)













再建とは?



今、一番読むべき農業本といったらこれでしょう。

内容は関心がある人向けの現代日本農業問題入門書、という印象。教科書的です。


著者は東京大学の農学部長・大学院農学生命科学研究科長。
名実ともに、農業分野の研究者のトップですが、ずば抜けて頭の切れる、いいおじさんです。
多忙なのに、うちのサークルの顧問をやってくれているのですから、本当に頭が下がります。

話題の自民・民主の政策対立から、ややマニアックな農地制度、背景となった食生活との農業生産構造の変化まで、(当然知るべき)幅広い内容をわかりやすく、きれいにまとめています。一ヶ月で書き上げたそうですから、持っている知識の深さと広さに脱帽するばかりです。


気になった点をいくつか。

①農家は自給率を上げない
・・・生産者に自給率を上げるインセンティブがないということ。つまり穀物よりも単価が高い野菜を作るのが当たり前だということ。カロリー自給率だけでは自給力(=いざというときに国内で食料を生産できる力)を正確に測れないということ。

②高齢化により国産需要が増加
・・・人口比36%の55歳以上の人間が、食糧消費額の52%を占めるという現状。高齢化により国産品需要は(相対的に)増えるはず。

③V農業は健闘
・・・施設利用型のV(value added)農業と、土地利用型のC(calory)農業に分類すると、衰退が顕著なのはC農業だけ(米は主業農家が18%)で、他方は健闘していること。

④自給率低下の原因は生産力低下
・・・自給率低下の原因を食生活の変化(需要面)と生産力の低下(供給面)に分類すると、1965-99年は食生活面21%、生産面12%、85-99年・・・食生活面5%、生産面8%と逆転していること。また、90年代に食生活、生産のピークがあり、以降は食生活はあまり変わらず、生産が減退していること。



いろいろ書いてある一冊ですが、「何が再建なのか」は分かりません。
研究者とは難しい職業ですね。真実を示さなければならないのですから。

政策のフロンティアが分かる、いい一冊だと思います。




No comments: