2008-04-20

『菊と刀 定訳』(ルース・ベネディクト, 長谷川松治訳/現代教養文庫)













I am a Nipponjin。


知らず知らずのうちに刷り込まれている自分の中の「日本人」を再発見する一冊。


本書はアメリカ軍が、対日占領政策の基礎として依頼した日本人についての調査報告書。
当時のアメリカ最高の人類学者が、「アメリカ人がこれまでに国をあげて戦った国の中で、もっとも敵心が知れない国」であった日本を描いています。国や文化や精神という、大きくきわめて動学的で形の無いものをこれだけ明確に、簡潔に、分かりやすく示しているというのは、学者として最高の仕事でしょう。

本書の構成も絶妙。
「なぜ野蛮な日本人が敗戦後はおとなしくなったのか」という(当時の)現状を描写し、その理由を明治維新、江戸時代以前から続く日本の精神(義理や人情や誠実)の中に見出し、さらにその根拠を子供の育て方に見出し、最後は政策提案で終わっています。日本の特殊性を、西洋と比べて、それぞれ合理的な思想の背景を提示しているので、極めて分かりやすいです。

日本のモットーは「すべてのものをあるべきところにおく」こと。日本人の特異性はきれい好きと汚れ嫌いで大方説明がつく。日本人の恒久普遍の目標は名誉。西洋人の強さは自己実現だが、日本人の強さとは自己犠牲である。日本人の生活曲線はU字型・・・。

読んでいると日本人としては当たり前に感じるのですが、言われてみると確かに奇妙かも、という点がたくさんあって、妙な感じです。たとえば、西洋人は正義や主義のために行動するため、負けても考えを変えることはないが、日本人は自分がある目的に達するために行動するため、負けたら手段が誤っていたと考えて、すばやく考えを変える、とか。



「その体系は全く独特のものであった。それは仏教的でもなく、儒教的でもなかった。それは日本的であった――日本の長所も短所も含めて。」


この認識はすごい。

よく成功例として上げられる占領政策ですが、成功の原因の半分はこの一冊だと思います。









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