2008-12-13

Nobel Prize Lecture at SSE

Economics as a science



今日は留学先の大学(SSE,Stockholm School of Economics)でノーベル経済学賞の記念講演会。毎年のノーベル経済学賞受賞者はこの大学で講演をするしきたりになっているだそうな。すげえ。

今年の受賞者はPaul Krugmanで受賞理由は"for his analysis of trade patterns and location of economic activity"。彼以前の理論では技術や資源の違いが国際貿易を生む、と説明していたのですが、それだと技術や資源があまり変わらない国の間の貿易が説明できなかった。そこにDiversity(多様性。同じ車でもベンツとカローラは違うよね、みたいな)やEconomics of scale(規模の経済。アメリカみたいに大企業が大量生産していたら労働力が高くなっても安く作れちゃうよね、みたいな)を持ち込んで、説明してしまったというのが1つの貢献。それを応用させて世界の富の偏りも説明しようとしてEconomic geography(経済地理学)という分野を切り開いたのがもうひとつの功績。

実はSSEはBertil Ohlin(1977年のノーベル経済学賞受賞者)の出身校で、かつ彼も国際貿易論での受賞だったのでいろんないみで記念すべき講演会でしたが、話題はFinancial crisisについてでした。


現在起こっていることは、今までにない新しい金融危機で、どんな理論でも説明できない、というのは正しくない。あえていえば、今まで起こったすべてが同時に起こっているのだ。特にアルゼンチン金融危機と日本の「失われた10年」は重要な教訓だ。これらの事実を眺めてみると、負のショックを財政政策によって相殺するのはかなり難しいということ、流動性の罠にかかる可能性が存在することがわかる。実際、プリンストンでも日本の90年代を題材にして、今から考えて当時どんな経済政策が打てたのかを検証しているが、有効な解決策は見つかっていない。次の一手は大きな財政支出だが、政治との関係で巨大な財政政策を発動するのは時間がかかる。またグローバリゼーションや地域統合(EU)で政策効果がスピルオーバーするため、景気の回復は2010年になるだろう。



・・・おもいっきり感激してしまいました。



まず、現状認識。
「何が起きているか」を明確に説明できること。自分で見て語るというのは、すごい。

過去との対照。
考えてみれば、あらゆる経済現象は過去にない新しい事例であり、過去にあった事例の一部であるわけです。重要なのは後者の認識で、過去のどの事例と何が類似点・相違点なのかを知ること。それができると、歴史から学ぶことができるわけです。講演後の質問では1930年代の大恐慌の話題が多かったのですが、バシバシ答えていました。すげえ勉強してる。。。

理論での仮説

上では載せませんでしたが、「モデルを作って検証してみたら流動性の罠の可能性があることがわかった」みたいな一言がありました。プリンストンでは大真面目で日本の90年代を検証しているらしいです。そして(あくまでモデルで)仮説検証してみる。

既存の理論を疑う視点

「90年代の日本の財政政策はあまり効果を上げなかった」→「財政政策の有効性が失われている」という既存の理論への差異として認識する視点はなかったなあ、と。そもそも経済理論は理論で現実には当てはまらない、ではなく、現実に当てはまらないのは理論が間違っているからと思わないといけない、と、わかっていてもできなかった一瞬。(ちなみに財政政策の有効性の議論は変動相場制だからでしたね)

現実へのチャレンジ

とにかくいまはそればかり考えている、という印象でした。ツールがあって、問題があって、毎日あれこれ解決策を練っている、という感じ。学者であり実務家である、という姿に率直に感動。


最近はGame Theoryの論文ばかり読んでいて、理論の世界にいた印象でしたが、ここに来て現実に戻った気がします。この間の講演会では経済学は仮説検証ができないから学問として発展の道筋が遅く不完全だと感じていましたが、社会現象こそが仮説検証の場であって、世の中の変化に理論が依存するという別の形をとっているのだということ、そして何より世の中を自分の目で見る道具なのだとその意義を再認識しました。経済学、おもしれえぞ。


毎日PCに向かって原稿を書いているけど、何度も書き直しなんだ。なぜなら新しい出来事が次々起こるからね。大変だよ。だけど面白いね。



30代には、経済学を使って世の中が見えるようになったらいいなあ、と。


ちなみに先の講演会で聞いた彼の研究のprincipleは以下の4つだそうな。

1.Listen to gentiles
2.Question the question
3.Dare to be silly
4.Simplify, simplify









2008-12-09

The Nobel Lectures 2008


Simplicity gets results。



今日はストックホルム大学のノーベル賞受賞者の記念講義に行ってきました。そう、授賞式はストックホルムなんですね。毎年受賞者が講義をすることになっているらしく、それが今日だったわけです。

講義はphysics, chemistry, economicsの順で9:00-15:30まで(途中休憩あり)。
各受賞者45分ほどの講義でしたが、話題やスライドの作り方、English wise、プレゼンテーション慣れ、ユーモアなどとにかく7人とも個性が出ていて、飽きることのない半日でした。感想などをいくつか。

1.Simplicity
驚くことに、各受賞とも共通していたのがこれ。何かのきっかけで既存の理論のほころびを見つけ、あれこれ試しても証明できず、同僚に白い目で見られながらずーーーーっと考えていてある日突然単純な発想を思いついて試してみると――という小説のような話がそこには広がっていました。(ただし、Krugmanの場合は多少違う印象)

2.Passion
とにかく自分の研究を説明する受賞者は楽しそうでした。本当に。

3.Truth

経済学と違って、物理や化学には「真理」があるんだなあ、と妙な感想を抱きました。理論で仮説を作って、実験して試して、違っていたら理論を直して・・・たしかに、それは楽しかもしれない。あと10年前にこういう講義を聴いていたら人生変わったかもしれないなあと思いました。きっと自分は自然ではなく人間に興味があったから文系にしたんでしょうね。